塗装仕様を決定する場合、塗料の特性を知っていなければなりませんので、木製品塗料の概略の特徴を示しておきます。しかし、この表はあくまで概念的な特徴を表しただけで、実際には個々の塗料は変性の仕方により、かなりの幅で性能が変化します
分類法/特徴 | 乾燥性 | 肉持性 | 耐久性 | 可撓性 | 耐候性 | 硬度 | 付着性 | 耐水性 | 耐溶 剤性 |
価格 | 主な用途 |
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樹脂ワニス | ◎ | △ | △ | △ | × | △ | ○ | × | △ | ◎ | 建物内部のヤニ止、 安物家具 |
硝化綿ラッカー | ◎ | × | △ | △ | △ | △ | ○ | △ | × | ◎ | 家具、建物内部 |
アクリルラッカー | ◎ | × | △ | △ | ○ | △ | ○ | △ | × | ○ | 家具、オーバーレイ合板 |
ポリウレタン | △ | ○ | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | △ | 家具、楽器、 スポーツ用品 |
ポリエステル | △ | ◎ | ○ | × | △ | ◎ | △ | ○ | ◎ | △ | 家具、楽器 |
油ワニス | × | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | × | ○ | ◎ | × | ◎ | 建物外部 |
フタール酸 | △ | ○ | ◎ | ◎ | ◎ | △ | ○ | ◎ | × | ○ | 建物内外部 |
カシュー | △ | ○ | ○ | △ | △ | ○ | ◎ | ○ | ○ | △ | 工芸品、什器 |
漆 | × | ○ | ○ | △ | △ | ○ | ◎ | ○ | ○ | × | 工芸品、什器 |
紫外線硬化型塗料 | ◎ | ◎ | ○ | △ | ○ | ◎ | △ | ◎ | ◎ | × | 建材、合板、家具天板 |
溶剤には、主としてアルコール類が用いられるため、酒精ワニスまたは発揮性ワニスともいわれます。セラック、ロジン、コーパル等の天然樹脂をアルコールやベンジンで溶解した安価な塗料です。
含まれる溶剤の揮発が早く、乾燥は早いもので5〜6分、長くても1時間とかかりません。
一般的な用途としては、木製品や建築の内部塗装などに用いられ、刷毛塗りが容易で乾燥が早いのでかなり多く使用されていました。
しかし、塗膜性能としては、あまり上等ではなく、耐候性・耐水性・耐熱性も良くなく、現在の使用量は、一時期ほど多くありません。これらの範ちゅうに属する木製品用塗料としては、セラックワニス・速乾ワニス・ダンマルワニスがあります。
ラッカーは
別名を硝化綿(ニトロセルロース)塗料と呼ばれるように、硝化綿のような溶剤によく溶ける繊維素誘導体を主成分とし、その他樹脂可塑剤等が溶剤に溶かされたものです。
乾燥過程は、含まれている溶剤が蒸発した後に固形分を残し、それが皮膜を形成するという、いわゆる揮発性乾燥です。揮発性乾燥の特徴は、一旦溶剤が蒸発してしまった皮膜でも、その上に溶剤が落とされると溶解してしまうことです。
ラッカーの長所は色々ありますが、以下に主なものを記します。
(1)乾燥硬化が非常に早く、普通20〜30分から1時間位である。
(2)塗膜が硬い。
(3)塗面がなめらかで光沢が良い。
(4)耐摩耗性、耐油性、耐水性、耐候性が強い。
欠点としては塗膜の厚さ、すなわち肉持ちが非常に少なく、そのため塗装回数が増してしまうことです。もうひとつは刷毛塗りが難しいということで、全然行われていないという訳ではありませんが、熟練が必要になります。
木製品塗装用のものとして使われるものに、ラッカーウッドシーラー、ラッカーサンデングシーラー、ラッカークリヤー、ラッカーフラットクリヤーなどがあります。
木製品に使用されるアクリルラッカーは、一般には硝化綿が配合され、ほとんどラッカーと同様な乾燥性と作業性をもっています。
しかし、その特徴に硝化綿ラッカーに比べて、黄変性の少ないこと、耐汚染性が良いことなどが挙げられます。
ポリイソシアートとヒドロキシル基を含むポリエステルとの付加反応を応用した塗料で、一般には2液性塗料です。
大気中の湿気で硬化する一液型ポリウレタン樹脂もあり、フロアー材の塗装に使用されるようになってきました。
仮にポリエステルの方をA液、ポリイソシアートの方をB液としましょう。(この名称の付け方はメーカーによって違う)そして、それらの両液を使用の直前に混合して使います。
このような多液混合型性の塗料は、可使時間というものがあり、混合後にこの可使時間が経過するとゲル化してしまい塗装不可能となります。ポリウレタン樹脂の可使時間は、普通20℃で4〜5時間位なので一旦両液を混合したものは、この時間内に使い切ってしまわなければなりません。乾燥は溶剤が発揮しても硬化
したわけではなく、その後も樹脂間の反応が進行し、常温では一応硬化したと見られる段階まででも24時間程度が必要であるので、一般には強制乾燥という方
法がとられます。この場合は、常温乾燥を1時間程度おこなった後に、通常50℃1時間程度の強制乾燥が行われます。
特徴としては、塗膜が強靱で耐摩耗性に富んでおり、付着力が優れている。また耐薬品性も耐溶剤性も強く、樹脂の配合の仕方によって相当柔軟性のあるタイプの塗料もできるので、皮革用等の用途もあります。
ただし注意しなければならないのは、あまりに耐溶剤性が良いために、下塗にこのポリウレタン樹脂塗料が使われた場合、あまり硬化促進された状態の上に上塗が塗られると、上塗の溶剤が下塗を全然溶かさないために、上塗が下塗に密着しないことがあります。このような場合は下塗にサンドペーパーを当てて、粗面にしておくと密着が良くなります。
ポリウレタン樹脂塗料の欠点としては、B液が水分の影響を受けやすく大気中の湿気によって硬化するので、使用後の容器はすぐに蓋をしなければならないことです。
また、塗膜が時間の経過とともに若干黄変する傾向があることと、上塗に使用した場合や塗放しの場合は良いが、ポリッシングする場合は、かなり磨き難いことがあげられます。
用途としてはかなり広いが、木製品の分野では、家具やキャビネット類、スポーツ用品等の高級木製品に多く使われています。
塗料用途別に、ウッドシーラー、サンデングシーラー、クリヤー、フラットクリヤーなどがあります。
酸とアルコールが脱水反応したものをエステルといいますが、多塩基酸と多価アルコールが反応すると、連続した樹脂状のエステルが生成されます。これをポリエステル樹脂といいます。
ここで多塩基酸に不飽和多塩基酸を使ってやれば不飽和、すなわち二重結合のある不飽和ポリエステル樹脂ができます。この樹脂をスチレンのようなビニルモノ
マーに溶解したものが、ポリエステル樹脂塗料となる。ポリエステル樹脂中の二重結合の二つとスチレン一つとが反応して、ゾルからゲルへ移行して硬化しますが、この場合のスチレンを架橋剤といいます。
ポリエステル樹脂塗 料の硬化には促進剤とよばれるコバルトナフテネートと触媒とよばれる有機過酸化物とを混合することが必要で、これらの使用量を増減することによって、塗料の可使時間や硬化速度も変わってきます。また、可使時間や硬化速度は大気の気温によってもかなりの変化があるので、塗装時の温度と可使時間の関係を十分考
慮して触媒、促進剤を添加する必要があります。さらに、可使時間は触媒、促進剤の量が一定であっても、調合量が多いと短くなる傾向があるので注意を要しま
す。
ポリエステル樹脂塗料にはノンワックスタイプもある。これはワックスが混入されていないので塗膜の透明性や下塗への付着性が良いが、空乾性にするための特殊な樹脂が使用されているので価格的には若干高い。ワックスタイプにはクリヤーしかないが、ノンワックスタイプはサンデングシーラー及びクリヤーがある。
ポリエステル樹脂塗料の特徴としては、塗料全体が塗膜を形成するので、非常に厚い塗膜が一回塗りで得られ、塗膜が内部から硬化していくので上乾きの心配がなく、塗膜が厚いほど硬化が良いといううことがあげられます。欠点としては、可使時間が短いので多液型スプレー装置や、可使時間を延長するための特殊塗装
法が利用されています。
用途としては、箱物家具やテーブルの天板、ポリエステル化粧板がその主なものであるとされてきました。しかし、厚塗り需要の減少傾向と、VOC問題を踏まえたスチレンを含む芳香族溶剤の利用縮少傾向をうけて、ポリエステル樹脂塗料の製造も減っています。
油ワニスは、ロジン・コーパル・こはく等の天然樹脂や石油樹脂・マクロン樹脂・樹脂酸変性フェノール樹脂等の加工樹脂とあまに油・えの油・きり油のような乾性油を過熱融合して重合し、これに乾燥剤を加え、ミネラルスピリット・テレビン油などの溶剤に溶解したものです
。
乾燥時間は1〜7時間、硬化乾燥5〜24時間程度で、一般に油分の多いほど時間が長くかかる。しかし、乾燥時間の長くかかる長油性のワニスほど耐候性が良
く、ラッカーが誕生する以前の木製品には、この油ワニスが多く使用されていました。しかし、現在では屋外用または特殊用途以外はほとんど使用されなくなり
ました。
あまに油・大豆油・サフラワー油・トール油系の乾性脂肪酸変性フタール酸樹脂の中油性又は長油性の樹脂をミネラルスピリット・トロール・キシロール・テレ
ビン油などの溶剤で溶解したものです。このワニスは、油ワニスに比べて耐候性が良く、透明仕上げに油ワニスと同様に用いられます。
一般には乾燥時間が6〜16時間で、その塗膜は温雅な光沢のある耐候性の良好な、強靱で付着性の良い性質を持っています。
用途として車輌用、機械、建築、船舶等かなり広範囲です。
南方産のカシューの実の皮から採取した油で、その主成分は漆のウルシオールに類似している。この油を加工油・天然樹脂・合成樹脂などと反応させ、各種の性能のカシュー塗料をつくります。
漆は、うるし科の木の幹などに傷をつけて、流れ出た樹液を加工、精製して作られる塗料で日本でも古来から用いられてきた優れた塗料です。
漆は適当な湿度を与えないと乾燥しない性質がある。これは、主成分であるウルシオールとフェノール化合物がラッカーゼという酵素の作用で複雑な酸化重合反応を行い、これによって塗膜が生成されるが、この際に湿気がラッカーゼの働きを助けるからです。
乾燥した塗膜は、非常に優雅な表面状態をしており、しかも耐水性、耐湯性、耐薬品性に優れています。
色は漆自体の独特な色が付いていることと、反応性に富むので、任意の顔料を分散して任意の色の塗料を得ることは出来ないが、透明なもの、黒、朱などがあります。
光沢は一般に半光沢であるが、乾性油などを加えて加工すると、優雅な光沢を出すことができます。
紫外線硬化塗料は紫外線のエネルギーを吸収した光開始剤が作用することにより、塗料主成分が連鎖重合反応(ラジカル重合)を起こして短時間で硬化する塗料です。
成分としては、オリゴマー(プレポリマー)、モノマー、光開始剤、増粘剤、溶剤、顔料(研摩剤・艶消剤)から成り立ち、次の形で硬化に至ります。
特徴としては、乾燥が速い・無溶剤化が可能・乾燥スペースが小さくて済むなどが挙げられますが、複雑な形状の塗装ができないことや、設備費が高いなどの欠点もあります。