塗装のクレームは特性要因図に示したように非常に多くの要因があります。
単一の要因によるクレームは比較的対策も立てやすいが、各種の要因が絡み合って発生したクレームは、その原因の追求がきわめて困難です。
木製品塗装には、かなり長い歴史があり、多くの経験が積み重ねられてきていますが、過去のクレームの経験をまとめておくことにより、今後のクレームの防止や調査の参考になれば幸いと考えます。
クレ−ムを発生する要因は非常に多く、その原因追求はかなり困難ですが、逆にある条件の下で塗装をすれば必ず問題が発生するという条件に次の7点があげられます。
1) 欠陥ある塗料の使用
2) 不適当な塗料の使用
3) 塗装方法の不適当
4) 塗装技術の未熟および注意
5) 塗装機器の不整備
6) 塗装環境の悪条件
7) 被塗物の悪条件
塗装クレームを発生の時期で分類すると、次のようになります。
1) 塗装時に起こるクレーム
・ブツおよびザラつき
・ゆず肌(オレンジピ−ル)
・ハジキ
・タレおよび流れ
・にじみ(ブリード)
・透け
・色分かれおよび色ムラ
2) 塗装直後の乾燥塗膜に起こるクレーム
・ピンホールおよび発泡
・カブリおよび白化
・乾燥不良
・つやびけ
・密着不良
・ちぢみ
・艶消不良
・銀目
3) 塗装後、長時間経過して起こるクレーム
・割れ
・変色
・やせ
a) 塗装時に起こるクレーム
名称 | 現象 | 原因 | 対策 |
---|---|---|---|
ブツ およびザラつき |
塗面が平滑にならないで小さなぶつぶつが全面または部分的に生じる。 | 1.塗料貯蔵中の皮張り、顔料沈殿および沈殿物の再分散不良 2.塗装環境における、高温、多湿、過度の通風および大気中のホコリ 3.被塗面のホコリ付着 4.スプレーダストの付着 5.塗料タンク、塗装用具のゴミ、ホコリの付着 6.不適当なシンナーの使用 7.異種塗料の混合 |
1.長時間の貯蔵に注意する。貯蔵は冷暗所の湿気の少ない場所におく。 異常発見のために予備テストを行う。 2.環境を改善する。 温度は10〜30℃ 湿度80%以下 3.エアーブローでホコリを除去。 4.ブ−スの排気を十分にし、ガンの操作、スプレー手順を適正にする。 5.使用後に必ず洗浄する。スプレーエアーの水、油やホコリはフィルターで除去する。 6.適切なシンナーを使用する。 7.的確に配合する。 |
ゆず肌 (オレンジピ−ル) |
塗面が平滑にならないで、ゆずの皮のような凹凸を生じる。 | 1.ゲル化前の塗料およびチキソトロピーのはなはだしい塗料 2.高い気温、過度の通風 3.被塗物の温度が高い。形状が複雑、または大きな被塗物 4.発揮の速いシンナーの使用 5.スプレーガンの選定および操作の不適正、吹付け、エア圧力の不足 6.塗料が不十分で吸い込みがきつい 7.粘度が高い。硬化剤の過剰添加 |
1.塗料の予備テストおよび特徴、性質を良く知る。 2.環境の改善およびリターダーを使用する。 3.温度を気温に近づける。 遅いシンナーを使用する。 4.適切なシンナーを使用する。 5.被塗物にあったガンを選定する。塗装距離は20〜30cm、運行速度は30〜60cm/秒,圧力は4kg/cm2とする。 6.下塗り十分に行う。 7.適切な粘度および正確な硬化剤の配合を行う。 |
ハジキ | 塗料が均一に付着しないで反発され塗膜のところどころに大きなへこみまはた穴模様を生じる。 | 1.シリコン系添加剤の入れ過ぎ 2.シリコン、油の混ざった大気中のホコリ 3.マスキングテープの跡 4.研ぎカスの残存 5.被塗物にホコリ、油、汗、指紋の付着 6.接着剤の付着およびにじみ 7.ブース内のグリスの飛散 8.スプレーエア中のドレン、水分、油分 9.下塗りにシリコンが含まれる 10.下塗りの研磨不足 11.異種塗料のスプレーダスト 12.不適当なシンナーおよび粘度 |
1.適切な添加とする。 2.環境を改善する。 3.テープ跡を洗浄する。 4.&5.塗装前の十分な表面の洗浄を行うよう、作業者の注意を促す。 6.接着剤の除去および種類の検討をする。 7.オイル、グリスを適度に使用する。 8.エアークリーナーの完備および点検を行う。 9.エ程のチェックを行う。 10.十分な研磨を施す。 11.ワンブース、ワン塗料の推進をし、ブース内の排気の点検を行う。 12.適切なシンナーおよび粘度とする。 |
タレ および流れ |
塗られた塗料が流動して塗膜に不均一な溜まりや、薄い部分が生じる。 | 1.乾燥の遅い塗料および熱可塑性塗料 2.気温が低いおよび湿度が高いとき 3.風通しのないとき 4.垂直面および複雑な形状の素材 5.厚く塗り過ぎ 6.シンナーの選定不良 7.うすめ過ぎ |
1.塗料の性質をよく知る。 2.環境を改善する。 3.適度の風通をすとる。 4.塗厚20μ以下にて塗装またはタレ防止剤入り塗料を使用する。 5.スプレーノズルの選定、ガン操作に注意する。 6.揮発の速いシンナーを使用する。 7.適度の粘度とする。 |
にじみ (ブリード) |
下塗りまたは下地の色が上塗りした塗膜にしみ出して、上塗りの色が変わる。 | 1.下塗に溶剤に溶ける顔料および染料を使用した場合 2.上塗りが溶解力の強い溶剤を含むとき 3.染料が大気中に浮遊している 4.容器の洗浄不十分 5.下塗りの乾燥不十分 |
1.顔料および染料の性質をよく知る。 2.適切なシンナーを使用する。 3.塗装場付近で染料を使用する作業をしない。 4.完全に洗浄する。 5.乾燥を十分にとる。 |
透け | 塗りつぶしの場合塗膜を透かして素地、または下塗りが肉眼で認められる。 | 1.着色顔料の少ない塗料 2.透明性の顔料を使用した塗料 3.顔料が沈殿 4.被塗物の色が上塗りする塗料の色より濃いとき 5.薄塗り 6.うすめ過ぎ 7.塗料の撹拌不十分 |
1.&2.塗料のチェック及び性質をよく知る。 3.長期間の貯蔵は避ける。また冷暗所に貯蔵する。 4.工程の検討、スプレー操作を検討する。 5.適切な塗膜厚にする。 6.希釈比およびシンナーを適切にする。 7.十分に混ぜる。 |
色分かれ および色ムラ |
塗面が均一な色にならないで斑点やしま模様が生じる。 | 1.色合わせに質の違った塗料を混入 2.過度の厚塗り 3.シンナーの不適合 4.うすめ過ぎまた、かきまぜ不十分 5.スプレーガンの不良およびガン操作の不良 |
1.同一メーカーの同一品質の塗料に使用する。 2.一度に厚く塗らず回数を多くして塗装する。 3.&4.指定されたシンナーを使用し、適度な粘度で十分に撹拌して使用する。 5.スプレーガンの点検、ガン操作の適正を確認する。 |
b)塗装直後の直後の乾燥塗膜に起こるクレーム
名称 | 現象 | 原因 | 対策 |
---|---|---|---|
ピンホール および発泡 |
塗膜に針でついたような穴、またはアワ状の小ぶくれを生じる。 | 1.ハジキ防止剤の過剰添加 2.被塗物の温度が高い 3.下塗りの膜厚が薄い 4.下塗りの乾燥が不十分 5.下塗りにピンボールおよび研磨不良 6.塗面にホコリ、水、油の付着およびスプレーエアの水、油の付着 7.シンナーの不適合 8.セッティング不十分 9.過度の膜厚および粘度が高い |
1.ハジキ防止剤などを適切に添加する。 2.被塗物は50℃以下の温度とする。 3下塗りの工程を十分に行う。 4.下塗りの乾燥を十分にとる。 5.下塗塗膜の状態を十分に調べる。下塗りにピンホールのある場合は研磨後再塗装する。 6.塗面の異物を完全に除去し、エアの点検を行う。 7.適切なシンナーを使用する。 8.セッティングは十分にとる。またはリターダーの添加を試みる。 9.一度に厚塗りしない。適切な粘度を保つ。 |
カブリ および白化 |
塗面が乾燥途中または乾燥後に霧がかかったように白くなる。 | 1.溶剤のバランスの悪い塗料 2.高湿度(80%以上) 3.被塗物の温度が気温より低い 4.水、油、指紋の付着 5.含水率の高い素材 6.スプレーエアに水、油が含まれる 7.シンナーの選定不適当 8.ドライヤーの過剰付加 |
1.希釈シンナーを十分に検討する。 2.リターダーを使用する。 3.被塗物および室内を保温する。 4.水、油、指紋を完全に除去する。 5.含水率を15%以下に乾燥する。 6.スプレーエアーの点検を行う。 7.シンナーを検討する。 8.正確に配合する。 |
乾燥不良 | 塗装後一定時間経過しても塗面が固化しない。 | 1.低温、高湿度 2.通風不足 3.素材のヤニおよび過度の水分 4.プラスチックよりの可塑剤の移行 5.厚塗り 6.下塗りの乾燥不十分 7.シンナーの選定不十分およびリターダーの過度の添加 8.硬化剤の配合間違い |
1.&2.環境はなるべく好条件で塗装する。乾燥炉を使用する。 3.ヤニ止めシーラ−の使用および木材の乾燥を十分にする。 4.塗料の選定および塗料送り管に注意する。 5.規定の厚膜で塗装する。 6.規定のシンナーおよびリターダーの使用。 7.正確に配合を行う。 |
つやびけ | 艶のあるべき塗膜が乾燥するに従い艶が消える | 1.顔料の多い塗料 2.湿度が高い 3.微細なホコリ 4.木材の含水率が高い 5.下塗りの膜厚が薄く吸込みが大 6.うすめ過ぎ、薄塗り 7.下塗りの乾燥不十分 8.シンナーの選定不十分 9.スプレーダストの付着 10.ドライヤーの過度の添加 |
1.クリヤーを添加する。 2.リターダーの添加または室内を保湿する。 3.塗装室の外と遮断および清潔にする。 4.含水率をチェックする。 5.下塗り塗膜が十分に形成するよう、工程を検討する。 6.粘度管理を十分に行う。 7.乾燥を十分に行う。 8.規定のシンナーを使用する。 9.スプレーガンの操作に注意、スプレーの定期点検を行う。 10.正確に配合する。 |
密着不良 | 塗膜が塗面から剥がれる。 | 1.低温、高湿度 2.木材の含水率が15%以上またはヤニ分がある場合 3.塗面に水、油、ホコリ、研磨粉が付着している 4.下塗りの研磨不足および過剰 5.下塗りの研磨後長期間放置された場合 6.下塗りおよびドライスプレー 7.塗料の撹拌不足 8.ドライヤーの過剰添加 |
1.乾燥炉の使用または素材を加温する。 2.含水率のチェック、ヤニ止めシーラーを使用する。 3.塗装前処理を徹底する。 4.研磨作業者の注意を促す。 5.塗装前に軽く研磨する。 6.規定の膜厚となるように、スプレー操作を注意する。 7.十分に撹拌する。 8.正確に配合する。 |
ちぢみ | 塗面が平滑に乾かないでちりめん状のしわ模様が部分的または全面に生じる。(木工塗装の場合は主に補修塗りの際に発生する。) | 1.塗装工程の不良 (2液型塗料の間に1液型をサンドイッチにした工程で上塗りした場合) 2.溶解力の強いシンナーの使用 |
1.工程の再検討を行う 2.適切なシンナーを使用する。 |
艶消不良 | 塗膜が規定の艶消しにならない。 | 1.艶消し剤が沈殿 2.湿度が高い 3.微細なホコリ付着 4.木材の含水率が高い 5.下塗りの膜厚が薄い 6.うすめ過ぎまたは粘度が高い 7.膜厚が厚すぎる 8.下塗りの乾燥不良 9.シンナーの選定不良 10.スプレーダストの付着 11.ドライヤーの過剰添加 |
1.十分に撹拌する。 2.室内の加温、強制乾燥炉を使用する。 3.塗装場を隔離する。 4.含水率をチェックする。 5.下塗りを充分にチェックする。また工程の検討を行う。 6.規定の粘度で使用する。 7.規定の厚膜とする。 8.乾燥度のチェックを行う。 9.適切なシンナーを使用する。 10.スプレー操作や換気に注意する。 11.正確に配合する。 |
銀目 | 下塗りシーラ−とポリエステル塗膜との境界線が部分的に浮き上がり、その部分が光線の反射によって生じる。 | 1ポリエステル樹脂の部分的な硬化不良 2被塗物と塗料との温度差が大きい 3.素材の含水率が高い 4.シーラーの塗布量不足、乾燥不良およびヤニ止め硬化不良 |
1.ポリエステル塗膜の硬化を正常にする。 2.素材を加温し温度差をなくす。 3.含水率を10%前後にする。 4.材質に合った回数と塗布量。また塗料の使用法を良く知る。 |
c)塗装後長時間経過して起こるクレーム
名称 | 現象 | 原因 | 対策 |
---|---|---|---|
割れ | 塗膜にさけ目、割れができる現象 | 1.顔料の多い塗料 2.連続的な寒気、強い紫外線 3.含水率の高い木材 4.吸込みの多い材また膨張係数の大きい材 5.平行張りの突板 6.不適当な塗料および工程 7.溶解性の強いシンナーの使用 8.下塗りの乾燥不良 9.適度の厚塗り、また薄塗り 10.硬化剤の過剰添加 |
1.塗料を適切に選定する。 2.耐候性の良い塗料を使用する。 3.含水率15%以下にする。 4.ウレタン系塗料を使用する。 5.クロス張り突板を使用する。 6&7.素材、季節、塗料に合ったシンナーを使用する。 8.十分に乾燥する。 9.適切な塗膜にする。 10.正確に配合する。 |
変色 | 塗膜が長期間経過後、本来の色と違った色に変化する。 | 1.変色しやすい顔料、染料および樹脂を使用した塗料 2.直射日光および強い紫外線 3.酸および薬品 4.素材の変色 5.不適当な工程 |
1〜3.耐黄変性塗料を選択する。 4.十分にかれた材を使用する。 5.適切な工程を選ぶ。 |
やせ | 塗膜が長期間経過後、木目状に、または部分的へこみを生じる。 | 1.下塗りの乾燥不良 2.含水率の高い材 3.吸込みおよび膨潤の強い材 4.塗布量が少ない場合 5.遅いシンナーの使用 6.研磨不十分 7.塗装工程が不適当 |
1.十分に乾燥する。 2.含水率は15%以下に保つ。 3.塗装工程をチェックする。 4.適切な塗布量にする。 5.塗料に適したシンナーを使用する。 6.十分な研磨を行う。 7.素材、用途、使用塗料により工程の検討を行う。 |